社会保険労務士としてお客様の様々な人事労務のお悩みについてご相談を受けますが、ひとつの大きなテーマに「採用」があります。割と最近までは採用難、つまり求職者優位の売り手市場でしたが、昨年のコロナの影響で状況が一転し当時と比べると現在は買い手市場です。
業種によってコロナによる影響は異なりますが、少なくとも求人者にとっては売り手市場の状況では応募もしてもらえなかった人材に、関心を持ってもらえる可能性が高まっているのは事実です。
企業人事時代に新卒・中途採用をやっていた際の活動は、今でも効果はあると思いますので、ひとつの例として紹介できればと思います。今回はその前段階のお話として、採用活動を行う際に必ずといって良いほど調べる「有効求人倍率」についてご紹介してまいります。

指標のひとつ「有効求人倍率」とは?
採用活動をする際に「有効求人倍率」という言葉を耳にされた事があると思いますが、定義は以下の通りです。
求人倍率
一般職業紹介状況(職業安定業務統計):集計結果(用語の解説)
求職者に対する求人数の割合をいい、「新規求人数」を「新規求職申込件数」で除して得た「新規求人倍率」と、「月間有効求人数」を「月間有効求職者数」で除して得た「有効求人倍率」の2種類がある。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/114-1_yougo.html
仕事を探している人(求職者)が1人にいる時に、仕事(求人者)がいくつあるかという事です。数字が1を上回っていると、求職者に対して求人者が多い状態。つまり採用が難しい状況。逆に数字が1を下回っていると求職者に対して求人者が少ない状況となります。
「有効求人倍率」は遅行指数である事に注意!
毎月初旬に「有効求人倍率」を含む「一般職業紹介状況について」という情報が厚生労働省のウェブサイトで公表されます。現時点で直近の公表されている数値は2021年1月のものです。
【厚生労働省】リンク:一般職業紹介状況(令和3年1月分)について
何故3月に1月の数値を公表するの?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、データの集計に時間がかかりますのでどうしてもタイムリーな数値を公表するのは難しく、少し前の数値となってしまいます。その為、「有効求人倍率」は遅れて出される数値の為遅行指数と言われます。この遅行指数の他の代表例として「完全失業率」があげられます。
数値を見る際はその月だけではなく経過もチェック
一番気になるのは今の数値ですが、ですが、その月(点)だけを確認すのではなく、今までのデータ推移(線)を見るのも大事です。何故なら「有効求人倍率」は遅行指数なので今現在を反映していませんし、急激に変わるものではありませんから過去の変動についても見ておく事には大きな意味があります。
上記厚生労働省のウェブサイトを見ると、2021年(令和3年)1月の「有効求人倍率」は1.10倍で、前月に比べ0.05ポイント上昇とあります。そして、ページの下を見ていくとグラフがあり、昨年1月からの1年間の数値の確認ができるようになっています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000212893_00051.html
「有効求人倍率」は線グラフです。昨年1月は1.49でしたがそこから明らかに下降し、直近では上向きになっているのがわかります。コロナの影響で急激に倍率が低下したものの、落ち着きを見せ上昇トレンドに入っているように見受けられます。
ただ、注意が必要なのは上昇しつつあるように見えるものの、まだ継続して上昇しているようには見えませんので、このまま上昇を継続できるのか、あるいは横ばいになるのかは判断が難しく思えます。
このようにその月の数値を「点」としてみるのではなく、過去の推移そして最近のニュース等の情報から現在の数値はどうなっているのかを推測し考える事はとても大事であると言えます。
コロナの影響で明らかに「有効求人倍率」は低下
上記でご紹介しましたように直近の有効求人倍率は1.10です。1を上回っていますので採用は簡単ではない、と言えばその通りです。しかし、ほんの少し前の時期に比べるとかなり「有効求人倍率」は低下しています。
【厚生労働省】リンク:一般職業紹介状況(平成31年3月分及び平成30年度分)について
2018年度(平成30年度)の「有効求人倍率」平均はなんと1.62です。グラフを見てもわかるようにどの月も1.6を上回って推移しているように見られ、安定的に「有効求人倍率」が高かった事がうかがえます。
【厚生労働省】リンク:一般職業紹介状況(令和元年12月分及び令和元年分)について
こちらは2019年(令和元年)平均の「有効求人倍率」ですが、こちらも平均で1.60という事で高水準で推移しています。
【厚生労働省】リンク:一般職業紹介状況(令和2年12月分及び令和2年分)について
そして直近2020年(令和2年)平均の「有効求人倍率」がこちら。コロナの影響を受け一気に低下した結果、平均で1.18となっています。
直近では昨年の平均を下回っている状況です。なかなか今現在求人意欲が高い会社は少ないかもしれませんが、この数年を見ても「有効求人倍率」が低く、欲しい人材を採用するチャンスるである事は間違いありません。採用に積極的な会社はぜひ今注力して活動される事をお勧め致します。